ピッキング盗難被害
取り付けた鍵の性能を問われた!
マンションの入居者が、ピッキングによる盗難被害に遭いました。
この入居者は、貸主が玄関のカギを防犯性の高いものにしていれば被害に遭わなかったとして、損害の賠償を求めています。貸主は損害を賠償しなければならないのでしょうか。
原則として貸主に損害賠償責任はない
借主の財産は、基本的に財産を管理している借主自身が守るべきでしょう。
賃貸借契約上、貸主には借主の財産を盗難などから保護する管理義務はありません。ですから、原則として、貸主が借主の盗難被害の損害賠償責任を負うことにはならないのです。
もっとも、契約によっては、貸主がこのような管理義務を負担しているといえる場合もあり、その場合には、貸主は借主が被った盗難被害について、損害賠償責任を負います。
具体的にどのような場合に損害賠償責任を負うかは、貸主がどの程度の管理義務を負担しているかによって異なるため、個別の賃貸借契約の事情に応じて、ケースバイケースで判断されます。
ピッキングによる盗難被害について、貸主の管理責任が問われた過去の裁判でも、「賃貸借契約において、貸主が負うべき本来的義務は、借家を使用収益させる義務、修繕義務などであって、借主の所有財産を盗難などから保護することを内容とする管理義務は賃貸借契約から当然に導かれるものではない」とし、貸主がこのような管理義務をどの程度負うかは、個々のケースに応じて判断されるべきだとしています(東京地裁/平成14年8月26日判決)。
先ほど紹介した東京地裁は、盗難被害について貸主は責任を負わないと契約に記載されていること、賃貸事務所の入口はダブルロックで一応の防犯効果が期待できたこと、貸主が順次賃貸ビルに機械警備を導入している最中であったこと、さらに借主が貸主にカギの交換を求めたことがなかったことなどを理由に、貸主はピッキング被害防止策をとる義務を負担していなかったとして、損害賠償責任を負わないと判断しています(同判決)。
以上をまとめると、原則として、借主がピッキングによる盗難被害に遭ったからといって、貸主はその損害を賠償する責任を負わなくてもいいと考えるべきでしょう。
もっとも、貸主がピッキングによる盗難被害について警察から何度も指導を受けていたのに十分な盗難防止策をしていなかったという場合には、事情が違ってきます。
この場合は、盗難を未然に防ぐ措置を怠ったわけですから、貸主は損害を賠償しなければならないでしょう。