家主と借主の義務
貸主の義務とは
建物や部屋などの物件を貸し借りするときの契約を「賃貸借契約」といいます。
これは、貸主(大家さん)が借主(入居者)に物件を使用させ、それと引き替えに借主が貸主に賃料(家賃)を支払うという契約です。
賃貸借契約をかわすと、貸主と借主はお互いに次のようなルールを守らなければなりません。
貸主側には以下3つの義務が課せられます。
1.物件を使わせる義務
貸主には、借主に物件を使わせる義務があります。また、その際には、物件を適切な状態で使用させる義務があるため、欠陥が見つかった場合は、その欠陥部分を修繕しなければなりません(民法606条1項)。
この義務は、貸主がわざと壊したり誤って壊したような場合だけでなく、天災で壊れた場合や第三者が壊した場合にも発生します。
2.修繕費用の支払い義務
借主自身が自腹で故障箇所を修繕するなど、物件を維持するのに必要な費用を支払った場合には、貸主はその費用を支払わなければなりません(必要費償還義務。民法608条1項)。
3.改良費の支払い義務
物件に改良を加えて「価値」を高めた場合には、貸主はその価値の増加分、もしくは借主が支出した費用のどちらかを支払わなければならないという義務もあります(有益費償還義務。民法608条2項)。
例として、借主がドアのカギを防犯性の高いものに交換するなど、が挙げられます。
借主の義務
借主には、次の3つの義務があります。
1.家賃を支払う義務
借主は貸主に対して賃料(家賃)を支払わなければなりません。
通常、賃料は、翌月分を前月末日までに「前払い」で支払うように定めることが多いでしょうから、期日までに規定の額を納めます。また、家賃の他に借主が支払うべきものとして敷金があります。
賃貸借契約においては、敷金の預け入れの合意をするのが一般的ですが、合意した場合、借主は決められた敷金を貸主に預けなければいけません。
なお、借主が賃貸物件を明け渡した後、滞納賃料や借家の原状回復にかかった費用を差し引いてもなお敷金が残ったときは、貸主には残金を返還する義務があります。
2.注意深く使う義務
借りた物件を壊したり汚したりしないように、注意深く使う義務です(善管注意義務)。
これは、取引において一般的に要求される程度の義務という意味です。
この義務に違反して、過失によって窓ガラスを割ってしまった場合や、壁に穴を開けてしまった場合には、借主は貸主に対して損害賠償責任を負うことになります。
3.原状回復の義務
契約終了後は備え付けたものを取り外し、原状に戻して返還する義務(原状回復義務)。
借主は、借家契約が終了した際に、賃貸物件に備え付けたものを取り外したうえで、もとの状態(原状)に戻してから返還する義務を負います。
たとえば、エアコンを取り付けた場合は、そのエアコンを取り外し、前の状態に戻してから明け渡さなければいけません。
ルールを破ったら直ちに契約破棄?
当事者、特に借主がこのような基本ルールを破った場合、貸主は契約を破棄する(解除するといいます)ことができるのでしょうか?この点については、基本ルールを破ったとしても、それだけですぐに契約が解除できるわけではありません。
賃貸借契約は、ある一定の期間、継続することが前提となっている契約であり、貸主・借主間の「信頼関係」が基礎となっています。
そこで判例は、借主が契約違反行為を行った場合でも、貸主と借主との信頼関係が破壊されたといえなければ、貸主は簡単に契約を解除することができないとしています。
信頼関係の破壊について、特に最近の判例は、個別の事情を考慮して判断する傾向にあります。
借主が基本ルールを破ったとしても、事情によっては契約が継続される可能性があります。