家賃滞納で契約解除したい場合
滞納1カ月で契約解除は可能?
マンションの一室を貸していますが、入居者が3カ月連続で賃料を支払ってくれません。賃貸借契約書には、「1カ月でも賃料の不払いがあった場合は、催告なしに賃貸借契約を解除できる」という一文があります。契約を解除して出て行ってもらうことはできるのでしょうか?
借主の基本的な義務「家賃の支払い」
借主が家賃を支払うことはもっとも基本的な義務です。賃貸借契約は、貸主が部屋や建物などを貸し、借主がその対価として賃料を支払う契約であるためです。
この義務が守られず、家賃を支払わないまま借主が居座り続けると、貸主にとっては大きな損害になります。こうした損害が発生しないように、「一度でも賃料の支払いを怠ったときは催告(督促)なしに契約を解除できる」と前もって契約書に定めておくことは、よくあることでしょう。
とはいえ、借主も生活のためや事業のために部屋を借りているはずですから、どうしても家賃が払えなかったという場合に、即刻出て行かなければならないとなると、大変困ったことになります。
そこで判例では、いくら契約書で取り決めがあったとしても、たった一度の家賃の不払いがあっただけでは、契約の解除はできないという扱いがなされています。
では、具体的に何回の不払いがあれば契約を解除できるのでしょうか?
実は、この点について確固とした基準があるわけではありません。
これまでの裁判例を見ても、2カ月間の賃料未払いがある場合に解除が有効とした例(松山地裁/昭和31年9月18日判決)もあれば、7カ月分の賃料未払いがあっても解除が認められなかった例(神戸地裁/昭和30年1月26日判決)もあります。
一般的には、契約の解除が成立するためには、何回かの賃料不払いがあったことが前提となります。解除できるかどうかの決め手となるのは、「当事者間の信頼関係が破壊されているかどうか」にかかってきます。
「信頼関係の破壊」の判断基準
賃貸借契約を解除するためには、信頼関係が破壊されたという事実が必要になります。
建物の賃貸借契約は、売買契約のように、何かを売ってもらう代わりにその代金を支払うというような1回限りの関係ではありません。普通は契約が数カ月から数年間続くことが想定されるので、そのためには両者の信頼関係が不可欠です。これを解除するためには、信頼関係が破壊されたという事実が必要になるのです。
多くの裁判例では、賃料不払いが当事者間の信頼関係を破壊するような不誠実なものでない限り、契約を解除することは貸主と借主の間の信義に反し、許されないとされています。
そして、信頼関係の破壊については、不払いの理由、不払いの金額、不払いの期間、一旦は不払いがあってもその後法務局に対して供託の手続きをし続けているか、などさまざまな事情を考慮して裁判所が判断することになります。
したがって、質問のケースのように3カ月分の未払いがあったとしても、貸主側の望む契約解除が認められるとは限りません。
しかし、借主に未払い分の家賃を払おうという誠意がまったくなく、止むを得ないような理由(高額な治療費を支払うためにどうしても払えなかったなど)がなければ、未払い分の賃料を請求(催告)したうえで解除が認められる可能性は高いでしょう。
契約書に「催告不要」の特約があったら
借主に対して家賃の督促をしなくても、貸主側が一方的に契約を解除できることが契約書に明記されている(無催告の特約)場合はどうでしょうか?
結論から言えば、いくら契約書に「催告不要」と書いてあったとしても、催告の手続きはしておいたほうがよいでしょう。
判例では、このような取り決めは「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」にのみ有効としています(最高裁判所/昭和43年11月11日)。
言い換えれば、一方的な契約解除は、それが止むを得ない特殊な事情以外は原則として無効だということです。
ですから、貸主が契約を解除する場合には、ある一定の期間を定めて、その期間内に家賃を支払うよう借主に請求することが望ましいのです。
この場合の「期間」とは、通常1週間程度を定めれば問題ないでしょう。
なお、家賃の請求や契約解除の意思表示をしたことは、裁判のときに貸主側が証拠を提出しなければいけません。そこで、配達証明付内容証明郵便で、「この書面受領後、1週間以内に未払い賃料○○○円が支払われない場合は、賃貸借契約を解除するとの意思表示をします」という書面を入居者に郵送しておくことが必要となります。