原状回復費用の請求範囲
請求できる・できないの判断はどうする?
借主が4年間の契約を終了してマンションを退去しました。部屋のクロスには、荷物を運び入れた際につけた大きなキズが残っていました。部屋全体のクロスの張り替え費用を請求したところ、「一部負担は止むを得ないと考えていたが、全体の張り替え費用を支払う気はない」との返答でした。費用全額は請求できないものなのでしょうか。
物的範囲と経過年数
クロスとは、壁や天井などに張るビニールなどの内装材のことです。
引越しの荷物の搬送時についたキズは、借主が粗暴な使い方をして発生したため、クロスの修復費用を請求できます。
では、借主は、キズのあるクロスの一部分のみ修復して新しいクロスにすればよいのでしょうか。それとも、キズのある部分のみ新しいクロスとすると、他の古いクロスとの関係で部屋全体の調和がとれなくなるので、天井なども含め部屋のクロス全体についての修復費用を負担しなければならないのでしょうか。このような修復対象物の範囲の問題を「物的範囲」の問題といいます。
また、クロスは入居時から4年経過しています。貸主は時間の経過にかかわらず、張り替え部分についてクロス代全額を請求できるのでしょうか。それとも、通常の使用により生じた価値減少分を差し引いた金額のみ請求すべきなのでしょうか。
このように「対象物に生じた時間経過をどのように評価するのか」という問題を、経過年数の問題といいます。
以下、物的範囲の問題と経過年数の問題にわけて説明します。
POINT:粗暴な使い方をされた場合は借主負担のケースもある
まず、物的範囲の問題について。粗暴な使い方をした結果、発生した損耗の修復費用は借主が負担することになりますが、その負担は必要な限度を超えてはなりません。
この点について、前述のガイドラインは、クロスについて「平方メートル単位が望ましいが、借主が毀損させた箇所を含む一面分までは張り替え費用を借主負担させることができる」としています。
経過年数の問題については、ひどい使い方をした結果発生した損耗の修復費用は借主の負担となりますが、時間の経過により価値が減少するものは、経過年数が長いほど借主の負担は少なくなるのが原則です(経過年数が考慮されないものもあります)。
ガイドラインは、クロスについて、6年で残存価値が10%(6年目以降は一律10%)となるような直線(または曲線)により残存価値を判断することとしています。
クロスの価値は入居後4年で60%減少する
では、質問のケースについては、どう考えればいいのでしょうか。
物的範囲について、ガイドラインの基準に従うと、借主は原則として部屋全体のクロスを張り替える必要はなく、キズを含む面の張り替え費用を負担すればよいことになります。
次に経過年数ですが、借主が入居した時点でクロスが張り替え後何年経過していたのかは明らかではありません。
しかし、新品の状態であったとしても、ガイドラインの基準によれば入居後4年間でクロスの価値は60%減少していることになります(15%×4)。したがって、借主へ請求できるのは、張り替え対象部分の修繕費用のうちの40%が上限ということになります。
このように、借主に原状回復費用を負担してもらう場合には、「物的範囲」と「経過年数」が問題となります。請求する原状回復費用が適切な額かどうかを検討するにあたっては、この2つの点に注目するようにしてください。