店舗用設備の費用は誰が払う?
飲食店開設のための電子レンジやエアコンの費用を請求された
借主がレストランを営業しており、そのために必要な電子レンジやエアコンを設置しました。賃貸借契約が終了するうえで、これらの設置費用を請求したいと言っています。支払いの義務はあるのでしょうか。また義務がある場合、この費用を支払うまで、建物の明け渡しを拒まれる可能性はあるのでしょうか。
追加で備え付けた設備費は請求される可能性がある
借地借家法33条1項は、建物の賃借人(入居者)が、賃貸人(大家)の同意を得て建物に追加で備え付けた畳や建具などを、賃貸人に時価(支出した費用ではありません)で買い取るよう請求できる権利を定めています。これを「造作買取請求権」といいます。
「造作」とは、判例(最高裁判所/昭和29年3月11日判決)によれば、「建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ、建物の使用に客観的便益を与えるものをいい、賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため特に付加した設備は含まない」とされています。
過去にも、調理台やレンジ、食器棚、空調設備など飲食店としての使用目的に沿って、建物に便益を与えているものだとして、造作と認められた判例があります(新潟地裁/昭和62年5月26日判決)。また、別の裁判例では物干場、台所用釣戸棚、電灯設備、水道施設、電灯引込線などが造作として認められています。
しかし、造作かどうかという判断は、難しいところがあります。例えば、利便性が良くなっても、家具など独立性が強いもので、取り外しても物件自体の価値が減少しないものは造作とは認められません。
また、戸棚でも借主がその建物を特殊な目的に使用するために設置した場合は造作とは認められません。
特約の内容に注意!
ここで注意したいのは、造作と認められさえすれば、自動的に賃貸人に対して買取請求ができるわけではないということ。造作は、貸主の同意を得て設置されなければならないという前提があるのです。
また、特約の内容にも注意が必要です。賃貸借契約をかわす際に、契約終了時に造作買取請求権を放棄する旨の特約(賃貸人の買取義務を免除する特約)が交わされた場合には、この特約は有効となります。したがって、貸主は買い取り請求を拒むことができるのです。
さらに、契約がどのように解消されたかという点も重要です。賃貸借契約が、債務不履行(賃料不払いなど)や、賃借人の背信行為を理由として解除された場合には、賃借人には造作買取請求権が認められません(最高裁判所/昭和31年4月6日判決)
支払いが済むまでは物件を明け渡してもらえない?
では、造作買取請求権が認められる場合、借主から造作の時価が支払われるまでは建物を明け渡さないと主張されても仕方ないのでしょうか?答えはNOです。
借主側からすれば、造作によって建物の利用価値が増加している以上、その費用を支払ってもらえるまでは建物を明け渡したくはないと考えるかもしれません。
しかし、判例(最高裁判所昭和29年1月14日判決)は、反対に、造作の時価が支払われないことを理由に明け渡しを拒否することはできないという結論を採っています。これは、造作と建物の明け渡しはあくまでも別であるという考えに基づいています。
造作と有益費。違いはどこに?
有益費は、建物を構成している一部分で、壊さなければ分離できないもの。造作は壊さなくても分離できるものです。
しかし、この区別はあいまいで、貸主の同意の有無という基準もあります。有益費の場合は貸主の同意を必要としませんが、造作の場合は必要です。
さらに、買い取りを求める価格は、有益費の場合は支出した実費か価値の増加額のうち賃貸人がどちらかを選択できるのに対し、造作の場合は時価という違いもあります。