明け渡しや家賃の回収を弁護士に依頼をして元はとれる?
弁護士という立場から一つだけアドバイスをしたいと思います。それは、滞納家賃のトラブルがあった時には、早めに専門家に相談するのが得策ということです。
大半の貸主が、どうにもならない状況、具体的に言うと、民事裁判しか選択肢がないという段階で、弁護士のもとを訪ねてきます。お話を伺うと、「もっと早めに相談してくだされば、逸失利益がこんなに膨らまなくて済んだのに……」と思うことがほとんどです。
このようなケースでは、早めに手を打っておけば、未回収の滞納賃料を最小限に抑えられたでしょう。速やかに明け渡しが実現できれば、他の入居者に部屋を貸せたため、逸失利益も多額にならずに済んだはずです。
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格安アパートの場合ならともかく、一般のアパート、マンションであれば、長期的に家賃を滞納されることを想定すると、弁護士に依頼しても十分もとがとれるはずです。
最近では、インターネットで検索すれば、私と同様、無料相談を行い、明確に費用・報酬体系を紹介している弁護士も多いと思います。ぜひ、依頼しやすく信頼性のある弁護士を探して、早めの対策をとってください。経営において大事なことは、費用を発生させないことではなく、逸失利益をいかに抑えるかなのです。
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賃貸経営の最大のリスクをどのように考えるか
言うまでもなく、賃貸経営において最大のリスクは、「家賃を滞納される」ということです。それにより、家賃回収の遅れによって経営計画が成り立たなくなるだけでなく、万が一、滞納家賃が未回収で終わった時にはあなたの生活に大きな影響を与えることでしょう。
しかし、賃貸経営をしている限り、家賃の滞納は高い確率で起こります。ある程度の部屋数を抱えている貸主であれば、必ず起こるといっても過言ではありません。
では、実際に家賃の滞納が発生したらどうしたらよいのか?
まず、初動を早めに行うことです。ここで言う初動とは、家賃の期日が過ぎたのに、支払いが行われない時、すぐに家賃の支払いを催告することでした。
そして、もう一つポイントになるのは、家賃を滞納しているからといって、借主に高圧的な態度をとっても意味がないということです。基本的には、本章で解説した順番で速やかに解決策を求めていくべきです。
それでも解決策が得られない場合は、民事裁判によって解決を求めていくしかありません。
示談による明け渡しのデメリットを考える
示談による明け渡しでは、「示談を行っても明け渡しが約束通り行われないこともある」というデメリットを考慮しておく必要もあります。
何度も繰り返している通り、借主が明け渡しを行わないからといって、貸主が、強制退去や鍵の交換、家財道具の処分などを行うことはできません。なぜなら、借主は、賃料を滞納しても、明け渡しの約束を破っても、民法の「自力救済の原則」に守られているからです。
このような状況に陥れば、最終的に民事裁判で訴訟を起こすことで解決を図ることになります。結果的には、話し合いによる明け渡しをやりとりした時間は無駄になってしまいます。時間の無駄とは、つまり、借主が部屋に居続けることにより、あなたの逸失利益が増大したということです。
ですから安易に話し合いによる和解を選択せず、民事裁判を視野に入れつつ、それでも示談の方がメリットがあると判断した時に選択するのが良いでしょう。
明け渡し時の未払いの家賃をどう処理するか
明け渡し時に、未払いの家賃が残っているということも少なくないと思いますが、これを処理するための選択肢としては、次の4つが想定されます。
① 全額を一括で支払ってもらう
② 一部を免除して残額を一括で支払ってもらう
③ 全額を分割で支払ってもらう
④一部免除して残額を分割で支払ってもらう
①〜③のケースで、支払いが滞った場合は、滞納していた家賃と同様、支払い督促や訴訟などを行っていく必要があります。
④のケースでは、示談書に「条件付き免除」を入れておくのが望ましいでしょう。条件付き免除の内容としては、あくまでも全ての支払いを履行したら一部を免除する、とします。これにより、支払いが一回でも滞った場合は、全額を支払ってもらうことが可能になります。
示談で明け渡しを決めた時の注意ポイント
賃貸借契約書の解除の催告後の展開としては、「貸主と借主の示談で明け渡しが決まる」というケースもあります。その場合、貸主が借主に対して、引っ越し代や立ち退き料を支払って、明け渡してもらうということもあります。
家賃を滞納している借主に対して、迷惑をこうむっている貸主がお金を払うなんてとんでもない話だ、と感じる人も多いと思いますが、家賃を払えない借主は、引っ越し代もないほど困窮しているケースが多々あります。裁判費用や逸失利益を勘案すると、その引っ越し代を支払った方が安いということもあるのです。
借主との間で、示談で明け渡しが決まった時は、次の内容を文書にまとめて示談書を作成します。
・明け渡し期日
・敷金、立ち退き料、その他金銭の処理法
・明け渡し後に残された粗大ゴミや所有物
これらと合わせて、明け渡し期日後に、借主が明け渡しを履行しない場合の違約金を設定しておくのが賢明です。その際には、「明け渡し猶予期限の翌日から明け渡し完了日までの間、1日当たり○○○○円の違約金を支払います」といった文を示談書に盛り込んでおくと良いでしょう。
明け渡し猶予期限というのは、示談書で設定した明け渡し日に借主が退去せず、その後、使用し続ける期間を指します。明け渡し日までの期間が明け渡し猶予期限になります。明け渡し猶予期限内は、賃料ではなく損害金が発生します。これらの内容を示談書に盛り込んでおくと、後々、借主がスムーズに明け渡さない場合の対策となるのです。
貸主、借主の間の話し合いで明け渡しを決めた場合のポイントは、金銭に関わることを全て示談書で明確にしておくことです。
・敷金の精算はどのように処理するのか。
・滞納家賃の支払いはどのように処理するのか。
明け渡し時に借主が部屋に粗大ゴミを残した場合、処分費を借主が負担する旨を盛り込むことも必要です。また、借主が私物を残して明け渡しをした場合、「所有権を放棄すること」を明記しておかないと処分することができません。
その他、現状回復費のこと、立ち退き料が発生する場合はそれについても示談書で明確にしておく必要があります。
負担の重い強制執行は最後のカードと考える
民事裁判をおこしてから強制執行までの流れを解説しますと、裁判で明け渡しの判決が出たからといって、すぐに明け渡しになるわけではありません。
以下の手続きを行うことで明け渡しが実行できます。
①裁判で「明け渡し」の判決が出る
②判決が出た裁判所に「強制執行の申し立て」を行う
③判決が相手に届いた証明となる「送達証明書」を裁判所からもらう
④賃貸物件を管轄する地方裁判所へ強制執行申立書、判決正本、送達証明書を 裁判所に提出し、「強制執行の申し立て」を行う
⑤執行官が借主に対して明け渡しを「催告」する
⑥執行官が借主に対して明け渡しを「断行」する
⑥の「明け渡しの断行」によってやっと、強制的な鍵の解錠、部屋の中の荷物の運び出しが行われます。通常、④「強制執行の申し立て」から、⑥「強制執行の断行」までに要する期間は約1ヶ月半程度です。
ちなみに、強制執行にかかる費用は、貸主がすべて負担することになります。
強制執行に必要な主な費用は、
・執行予納金
・断行時の人件費とトラック代
です。執行予納金の額は、東京地裁の場合は6万5千円(2008年2月現在)、断行時の人件費とトラック代は、運び出す荷物の料に応じて、数万円から100万円超が一般的です。
このように強制執行は、貸主にとって大きな負担となります。最終的なカードと考えて、借主本人が自ら明け渡しを行うよう交渉するのが賢明です。
内容証明の受け取りを拒否された時の対応策
契約解除の通告後の借主の反応として、もう一つ考えられるのは、「賃借人が内容証明を拒否する(受け取らない)」というケースです。これは、ある程度、知識がある人が確信犯的に拒絶しているケースもあり得ます。内容証明郵便の受け取りを拒否する正当な理由として認められるのは、「(旅行中などの事由によって)本人が不在で受け取ることができない」という場合だけです。
いずれにしても、内容証明が返送されてきた時には、裁判の時に証拠として使えるよう保管すべきです。中身だけではなく、封筒などもそのままの状態で保管すると良いでしょう。
ここで注意すべき点は、いくら家賃を滞納し、さらに、内容証明の拒否をしているからといって、貸主が借主を強制退去させることはできない、ということです。強制退去が実行できるのは、法のもとの執行官のみです。こういったことを無視して、実力行使に出てしまえば、後日、借主から逆に訴えられるなどのリスクがあります。裁判に訴えないとしても、マスコミや貧困ネットワーク団体などに駆け込むことも考えられます。
内容証明の受け取りを拒否された時には、ご自身でムリをせずに、民事裁判による解決を目指すのが賢明です。
民事訴訟では、「滞納している家賃の支払い」、「部屋の明け渡し」、「契約解除後の使用料」などを借主に求めていきます。裁判の訴状であれば、文書で契約解除の意思さえ示しておけば、受け取りを拒否されても法的に効力を発揮します。そうなると、借主はもう現実から逃げることは許されません。
また、もう一つの選択肢として、内容証明が返送されてきた後、「連帯保証人に内容証明で催告をする」という方法もあります。このようなケースでは、連帯保証人に催告をすれば、借主本人に催告をしたのと同じ効力があります。
借主が分割払いを申し出てきた時の対応策
借主が滞納家賃を分割で支払いたいと申し出てきた場合はどうでしょう。
これは、全額支払いのケースとは異なり、貸主の判断により、契約を解除することもできます。もし、分割支払いでも契約を続けても良いと貸主が考えれば、契約が継続できるわけですが、必ず書面で支払い日を確約してもらいます。
文面のポイントは次の通りになります。
[定期的に分割支払い時のポイント]
平成○年○月から平成○年○月の間の
毎月○日に支払いを履行する旨を明確にする
[不定期で分割支払い時のポイント]
支払い日をすべて明確にする。
例)
第1回支払い日 平成○年○月○日
第2回支払い日 平成○年○月○日
第3回支払い日 平成○年○月○日
不定期支払いで、金額がその回によって異なる時は、金額も明記することは言うまでもありません。
ただし、分割支払いの場合はこれで解決したと考えるのは時期尚早です。対象となる借主は、過去に支払いを履行する約束を破ったことがあるわけですから、そのまま信用するのはリスクが高いと言えます。ですから、借主が支払いを履行しない時に備えて、支払いの約束が守られない場合は、自動的に賃貸借契約を解除できることを文書内に入れておくのが望ましいでしょう。
「あれ? でも、賃貸借契約書の中に、解除できるという一文を入れても、結局、一方的な解除はできないのでは?」と思った方もいらっしゃると思いますが、一度、催告をした後に作成した約束文書の約束が履行されない時は、催告なしでも契約解除が認められることが多いのです。
借主が全額一括払いを申し出てきた時の対応策
契約解除の催告後の借主の対応はいくつか想定されます。
その中の一つは、「契約解除の通告後、これまで滞納していた家賃を全額支払ってきた」というものです。借主側から見ると、これ以上、滞納した家賃の支払いを引き延ばすと、契約の解除と明け渡しが現実味を帯びてきたためプレッシャーを感じて支払った、というケースです。
これに対して、貸主が、「滞納賃料を支払ったのだから、契約の解除を取り消し、このまま契約を継続しても良い」と考えれば全く問題はありません。
問題となるのは、貸主が、「全額支払ったとしても、今回の滞納によって信頼関係は壊れたから契約を解除したい」と考えた場合です。
「散々迷惑をかけられたのだから、このような借主とはもうつきあいたくない」というお気持ちも分かりますが、借主が全額を支払えば契約の解除はできません。なぜなら、法的には、滞納していた家賃を全額支払った時点で、「契約解除の理由」がなくなるからです。
支払いの約束が破られたら民事訴訟に備える
滞納家賃支払いの催告を行い、書面で支払いを約束したにも関わらず、借主が支払いを履行しなかった場合、「貸主と借主の信頼関係が破壊された」可能性が高いと言えます。
次にあなたがとる行動は、「賃貸借契約の解除の催告」になります。
この段階までくると民事訴訟を起こす可能性も十分ありえるわけですから、解除の催告は、内容証明と配達証明で通告をするのが望ましいでしょう。滞納賃料の催告の時と同様、口頭で契約解除の催告を行っても法的には効力があります。
しかし、口頭で催告を行っても、借主に否定されれば裁判時に催告を行ったことが証明しにくくなります。民事裁判になった場合に備えて、内容証明で証拠を残しておきましょう。