立退き料の支払いは義務ではない
最後に⑤の「立退き料」について、見ていきましょう。
立退き料は、建物の明け渡しの条件として支払う場合(支払いは明け渡しよりも先)と、明け渡しと引き換えに(同時に)支払う場合がありますが、必ず支払わなければならないものであるとは限りません。
この点、東京高裁平成3年7月16日判決は、建物の基本構造部を含めて老朽化が顕著な事案において、貸主の建物使用の必要性がなくとも立退き料の支払いを考慮して正当事由を認めています。
東京地裁平成3年11月26日判決は、老朽化がひどく地盤崩壊などの危険性がある建物について、これを取り壊して貸主の生活の基盤となるような新しいビルを建てる必要性があるとして、立退き料がなくとも、明け渡しの正当性を認めました。
また、最近の裁判では、建物の高度再利用を目的とする場合には、高額の立退き料の支払いを条件に、「明け渡し」の正当性を広く認める方向にあります。
たとえば、あまり傷んでいない建物であっても、貸主から事業拡張のための建て替えという名目で明け渡しを求められる場合がありますが、こうした場合は高額の立退き料の支払いさえあれば、明け渡しが妥当と判断されることが多いようです。