借主負担は一切認められないか
ここで貸主側からは「〝通常使用による損耗〟の修繕費用を借主に請求することは絶対に認められないのか」という疑問が出るかもしれません。
実はこの点については、※「強行法規(民法90条参照)」に反しなければ、借主が負担すべきという特約が有効になる場合があります。
※ 強行法規……当事者が合意する・しないにかかわらず、守らなければならない規定のこと。
では、どんなときに借主に負担してもらうことが可能になるのでしょうか。
判例の流れは、
① 特約の必要性があり、暴利的でないという客観的で合理的な理由が存在すること
② 通常の原状回復義務を超えた修繕義務を負うことを借主が特約から認識していること
③ 借主が特約による義務を負担すると意思表示をしている
以上の3つの要件が必要であるとしています(伏見簡裁/平成7年7月18日判決)。
これらを一つずつ具体的に見ていくと、以下のようなことが必要になります。
①では、物件が周辺の家賃相場と比べて明らかに安いため修繕費用くらいは借主に負担してもらう必要があること、また、修繕の範囲や費用が妥当で、特に暴利的ではないこと。
②では、「通常使用による損耗」の修繕費用は借主が負担する必要はないという原則があるが、この契約では例外的に負担することになっている、と契約者本人に理解させること。
③では、将来借主の負担を予想させる修繕費用がどの程度になるのか、工事項目、工事内容、工事項目ごとの概算費用を具体的に明示しておくこと。
もし、このうちのどれかが欠ければ、貸主は借主に「通常使用による損耗」の修繕費を請求できなくなります。
もっとも特約の有効性については、居住用物件と営業用物件で、多少判断が異なります。
居住用物件では、述べてきたように厳しい要件を満たす場合にのみ有効で、簡単には認められないのが現状です。
POINT:営業用物件は特約の効力が高い
一方、営業用物件については、居住用物件に比べて特約の効力が有効と判断されるケースが多い傾向にあります(東京地裁/平成17年5月18日判決、東京地裁/平成17年4月27日判決、東京高裁/平成12年12月27日判決)。