自己使用の必要性は程度?
そもそも貸主がその建物で営業しなければ生活が成り立たなくなるという場合には、貸主の自己使用の必要性が高いことは明らかです。
このような場合、貸主が自分の生活が成り立たないという犠牲を払ってまで借主を営業させなければならない理由はありません。したがって、立退料を提供せずに正当事由が認められる可能性が高いといえます。
しかし、貸主にとって営業が生活以上の経済活動のためであれば、借主の必要性と比較することになります。
必要性が同程度の場合には、借主が立ち退くことによって生じる営業上の損失を立退料の支払いでまかなえば、正当事由が認められやすくなるでしょう。
ただし、貸主が生計のためではなく、収益を維持・拡大させる目的で立ち退きを求めている場合には、貸主にとっての建物の必要性はそれほど高くないと考えられます。なぜなら、貸主がどうしても、その場所で営業をしなければならない理由がないからです。
したがって、正当事由は認められにくいでしょう。
この場合、もし借主側の営業の必要性のほうが高ければ、たとえ貸主側から立退料の提供があっても、正当事由は満たされず、明け渡しはできないものと思われます(同趣旨の判例として水戸地裁/昭和51年4月20日判決)。
なお、期間満了時に貸主がやむを得ない理由で更新を拒否しても、借主が依然として建物を使用し続けている場合には、貸主がすぐに異議を唱えなければ契約は更新されてしまいます。